吹奏楽コンクール課題曲の演奏について

吹奏楽コンクール課題曲の演奏について

今夏の吹奏楽コンクールも地域大会や県大会を終えたところです。
8月中旬以降に支部大会がさらに始まります。

コンクールを聴かせていただいて、多くの団体に共通して「ちょっと変だな~?」
と、疑問に思った点がありました。

課題曲1 スケルツァンド 作曲:江原大介
この曲で納得のいく演奏は至難の技だと思いました。
曲題の「スケルツァンド」(Scherzando)とは、「諧謔的に」という意味を持っています。
諧謔的」とは、「おどける」とか、「たわむれる」、「冗談」といった意味がありますが、音の厚い吹奏楽でそのイメージを表現するのは大変難しいと思いました。

「軽快さ」「軽妙さ」を重視し、音量を抑えた上での機敏な強弱やニュアンスの変化が出来ないと、「スケルツァンド」にはなりません。
たいていの演奏が、眉間に縦皺を寄せたように、重たく、深刻過ぎる演奏になっていました。
もっと、「明るさ」「楽しさ」「ゆとり」「軽妙さ」を心に描いて演奏してもらいたいと思いました。

課題曲2 マーチ・シャイニングロード 作曲:木内 涼
今年は圧倒的にこの曲に人気が集まっていました。
単純明快で取り組みやすい曲だからでしょう。
しかし、この曲では殆どの団体がイントロ6小節が終わって、マーチの主題に入ったところで、テンポが後退し、音楽が消極的になってしまうのが気になりました。
同じことが「トリオ」の部分でも感じました。
2小節の前奏部が終わり3小節目からの美しいテーマを期待するのですが、やはり精彩を欠く、ぼやけたトリオになってしまいました。

また、伴奏パートは16回、同じ伴奏型を繰り返しますが、16回まったく同じように繰り返しているのは反省ものです。
奇数小節と偶数小節とで少し趣を変えるとか、
4小節ごとに物語を作ってみるとか工夫し、
音楽をする上では「機械的な繰り返し」は絶対にあってはならない、ということを見直して欲しいと思いました。
 
課題曲3 インテルメッツォ 作曲:保科 洋
大御所保科洋氏のこれまた難曲です。
強弱記号がとても緻密に記入されているし、各パートが独立して三連符を刻んでいるので、きちんとしたテンポの中での豊かな表情が求められます。
勝手なアゴーギグを付けたり、適当な音量で音を出すと何をやっているやら解らなくなります。
「フォルテ」「フォルテッシモ」の部分は「まさしく大事な頂点」であって、そこに向けて上手く盛り上げる工夫が大切です。
盛り上がらないまま終わってしまい、客席は白けているという現象が見られました。
 
課題曲4 マーチ・「春風の通り道」 作曲:西山知宏
課題曲2に次いで多く演奏された曲ですが、課題曲2ほどは多くなかったのが意外でした。
この曲でも、伴奏パートの人たちも立派な役割を担っているということを、見直して欲しいという思いを強くしました。

第一主題も第二主題(トリオ)も、主旋律だけで音楽表現を完璧にすることは出来ません。
伴奏の醸し出す音楽の上に乗っかってこそ、初めて音楽が完成されます。
伴奏パートだけで演奏してみて、それだけで十分音楽的な内容が在るかどうか確認してみて下さい。
とりわけ小節の第1拍目の重みは大切です。

最近の曲は若者向きということもあってか、シンコペーションが多く使われていますが、シンコペーションの表現が単一的であったり、本来強拍であるはずの拍の重みを無視して演奏しているのを多く見かけました。
第1拍目の重みと言えば、第一主題、第二主題(トリオ)とも、第1拍目が第2拍目からのシンコペーションに影響され、スタッカートで演奏している団体が沢山ありました。
それも解釈の一つかも知れませんが、原則的には第1拍目の役割としての、重心(Schwer Punkt)は必須だと思いました。

課題曲5 「メタモルフォーゼ」~吹奏楽のために 作曲:川合清裕
この曲を演奏していた団体がなかったのでノーコメントですが、
とても精密、繊細な曲です。
このようにデリケートな音色と表現を持った曲を、吹奏楽でどんどん追求して行けば、吹奏楽の魅力もより高められることと思いました。素晴らしい作曲者です。


以上、多くの団体に共通して見られた、疑問点のみを挙げました。